一杯のコーヒーが、
僕に教えてくれること。
—コーヒーというとても身近な飲み物を挙げていただいたことがとても面白かったのと、同時にどういうお話を伺えるのか楽しみにきました。
僕も北川と同じく、創作にキャンパスノートは欠かせない存在ですが、その傍らに必ずあるものがコーヒーなんです。何かこう、ひらめくときって気づくとコーヒーを飲んでいて。だからレコーディングしているときなんかも欠かせません。ちなみに飲むのは、大抵ブラックです。
—もともと飲み物としてもコーヒーが好きなんですか?
いえ、今でこそコーヒーは欠かせないものですが、昔はコーヒーが全然飲めませんでした。10代の頃は「あんなに苦いものをなんで大人は飲んでいるんだろう」ってずっと思っていましたし。そんな僕にコーヒーの飲み方を教えてくれたのは、北川なんです。「お茶の苦味と同じ解釈で飲めばいいんだよ」っていう、彼の一言で、僕はコーヒーの存在がようやく理解できました。
—北川さん、よっぽど説得力があったんですね(笑)。
だから今も味にこだわりって全くないんです。むしろ飲みたくて飲むというよりも、創作活動の傍らに必ず必要なものだというのはずっと変わりません。ただ唯一僕にとって大事に思えることがあるとしたら、コップ一杯分であること、かな。僕にはその一杯分が砂時計に見えるんです。例えば「この一杯を飲んだら出かけなくちゃ」と、時間を計ることありませんか? 僕はいつも時間の経過を感じています。さらには、自分の気持ちを測るバロメーターにも。例えば冷めたコーヒーを口にすると、「温かいうちになぜ飲めなかったのか?」と、自分の気持ちと向き合うきっかけになったり。一杯のコーヒーという存在が、僕に教えてくれることって本当にたくさんあります。
—コーヒーの習慣を作ってくれたのは北川さんでしたが、ふたりで“ゆず”という音楽を作り上げる上では、どんな対話をされるんですか?
まず大きくあるのは、楽曲についていえば原曲を持ってきた作者の意向を立てるということですね。そこは絶対にぶれてはいけない部分なんです。でも、例えば「これはどうなんだろう?」といった、作者の迷いがあるときは横やりを入れることができるっていう、そういう暗黙の了解があるんです(笑)。やっぱり作者も迷うことがあるので、そういうときはとことんふたりで突き詰め合います。
—今回でいうと名和さんとの制作になりますが、全く違う現場で活躍する方々とのモノづくりは、岩沢さんにとってどんな経験になっていますか?
いつも刺激を求めているわけではないんですけど、名和さんをはじめ、今までやってきた方々との経験は、すべてのものに活かされているんです。音楽を始めた頃というのは、普段も刺激をもらうものって音楽だったんですよ。でも少しずつそこから音楽ではないものに刺激を受けるようになっていって。特にうちのリーダー(北川)は「何それ!?」ってなんでも興味津々君で(笑)、「すぐに行ってみよう!」みたいに行動を起こしていく。その行動の結果は必ずすべて音楽に落とし込めるというか、活かしていく。自然とそういうモノの見かたになっていきました。
—最後に、「感覚がひらく体験」といわれて、最近の出来事のなかで何か思い出されることはありませんか?
声という楽器に対する体験ですね。本当に声って不安定な楽器なんです。歌うとよくわかるんですけど、そもそも声の良し悪しの判断基準も人それぞれですよね。ピッチ(声の高さ)で判断する人もいれば、ピッチがはずれていてもいい響きをしているという人もいる。そのずれにこそ面白さがあるんですけど、最近レコーディング直後に、カーラジオから聴こえてくる音楽に対して、このアーティストはどんなレコーディングをしているのか、その空気感がわかってしまうことがあって。「この歌は何テイク目だな、いやこのピッチ甘いな」とか、ぼんやりと感じてしまう。レコーディング中、ずっと歌声に神経を集中させていたので、きっとすごく聴覚、特に歌声に対する感覚が研ぎすまされてしまったんですよね。最近特にそういう現象がよくありました。
—そんななかで、岩沢さん自身がいいと判断するときの声ってどんな声ですか?
うまく言葉では言い表せないんですけど、歌っていて気持ちいいとか、この声がいいとか、自分のエゴとかそういうものは抜きにして、直感的に「なんか……いいよね」という素直な感覚で捉えた声ですね。結局、それが自分にとってポップスに結びついていくと思うんですよね。その感覚をレコーディングのときにはすごく大事にしています。