作曲家。自作をピアノやヴァイオリン、パンデイロなど、様々な楽器で演奏する。東京藝術大学と同大学院、パリ第八大学第三課程にて音楽学を専攻。作曲は独学。現在、演奏活動のほか、 舞台、映画、CFなどの音楽制作も手がけている。4月23日に、小説家・詩人の川上未映子さんとのポエトリーリーディング企画(@水戸芸術館ACM劇場)が開催予定。4月29日に、音楽家・トウヤマタケオとの共演ライブ『2台のピアノによる演奏会』(@自由学園明日館・講堂)が開催予定。
https://www.umitaroabe.com/
実際のセーヴル磁器を鑑賞できる、展示室でのこと。そこで海太郎さんは磁器に施された繊細な装飾に釘付けでした。
「僕が最も印象に残ったのは、磁器の一部分にスポットライト(A)を当てる展示手法です。普段演劇にも携わっているからなのか、僕にはその光を浴びたお皿がさも舞台に立つ人物に見えて、展示ケースが小さな劇場に見えたんです。すごくわくわくしました。あと“L”と描かれたモチーフの周りに葉っぱが2、3枚描かれてますが(B)、そこにもグッときます。少しでも葉っぱの位置を間違えると絵柄全体がおかしくなるじゃないですか。だから葉っぱの装飾はとても勇気がいることだったのでは? と担当した絵付け師へ想いを馳せてしまいます」(海太郎)。
作品の一部分に光を当てたのは、やはりそこに隠れた物語に気づいてもらうため。例えばお皿の裏側には、製造年や関わった職人のイニシャルが記されていて(C)、そういった箇所に視点を置けるよう、ディスプレイ解説でも工夫をしています。
楕円波縁皿。
1773年にルイ15世からアストゥリアス公妃マリア=ルイサ・デ・パルマへ贈られた食器セットの追加品として1776年3月1日に送られた品。
阿部海太郎さんも体験した、
第7回展『外交とセーヴル磁器展ヨーロッパの歴史を動かした華麗な器たち。』は、
5月15日までミュージアムラボにて開催中(観覧無料・予約制)。
実際のセーヴル磁器の展示はもちろん、その技法や宮廷の食卓儀礼などを
織り交ぜ紹介しています。ぜひご覧ください。
海太郎さんの作品
1st album
“6, Rue des Filles du Calvaire, Paris”
「パリ・フィーユ・デュ・カルヴェール通り6番地」
ある一年間にパリで聴こえた音の集積。パリの街並みを切り取ったフィールドレコーディングと、ときに情熱的なピアノが奏でる不思議な時間。この言葉なきストーリーは、聴く者の心を動かす。
2nd album
「SOUNDTRACK FOR D-BROS」
架空のホテルを描いた“HOTEL BUTTERFLY”のシリーズ、カレンダー作品から始まり、のちに絵本となった『BROOCH』のための楽曲、チョコレートをテーマにした映像作品『欲望の茶色い塊』のサウンドトラック、カップ&ソーサーのために作曲された楽曲など、これまで手がけたD-BROSとの数多くのプロジェクトのほか、本作のために書き下ろされた新曲も収録。
音楽とは曲づくりも演奏も、基本的に一人ではできない、誰かの力を必ず必要とするものです。それはすごくエキサイティングなことなんですが、その分、心を消費してしまうことも。そんな音楽生活を送っている僕は、普段から無性に美術館に行きたくなることがあります。それはきっと、ひとつの作品を鑑賞するためにかける時間も鑑賞する順路も、ただひとり、自分の感覚に従って前へと進められるからなんだと思います。1対1の関係性なんですよね、作品と自分は。だから美術館という空間に身を浸すことで、普段の僕の時間の流れ方や使い方が少しリセットされて、気持ちがスッキリしてくるんです。そういう意味で、僕にとって美術館とは心のリハビリ空間でもあるのかもしれません。
今回ミュージアムラボでは、18世紀に作られた本物のセーヴル磁器を鑑賞しましたが、音楽と違ってアートは、まぎれもなく現物(作品)が残されていること。それがいいなって改めて思いました。例えば18世紀の音楽だったら、今のように録音技術が発達していないので、“作品(音)そのもの”が残っていないんです。とすると唯一の手がかりは楽譜。だから僕ら音楽家は、その楽譜を通して作曲家の想いや当時の音など、様々なことを妄想してその音楽を再現していくしかない。それこそ自分の感覚をひらいて、作者の気持ちをなぞりながら半分一緒に制作していくんですよね。でもそうやって自分で作品を塗り替えることができるのは、音楽にしかできない面白さだったりして、結局音楽のそういうところも僕にとっては魅力につながっているんです。