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《聖母子と聖カテリナと羊飼い》 通称《うさぎの聖母》
1525-1530年頃
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ピェーヴェ・ディ・カドーレ1488/1490年―ヴェネツィア、1576年
パリ、ルーヴル美術館蔵
© 2007 Musée du Louvre / Angéle Dequier |
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16世紀のティツィアーノの作品、《うさぎの聖母》が日本初公開になります。《うさぎの聖母》は通常、ルーヴルのヴェネツィア絵画の展示室にあり、ルーヴルが誇るイタリア美術コレクションの中でも最も美しい作品のひとつに数えられています。洗練された様式で描かれた宗教画には、ティツィアーノが生きた時代のヴェネツィアの田舎の風景に、キリスト教の場面が描写されています。絵画の豊かな象徴や美しさと同時に、《うさぎの聖母》は作品に込めた人物や事物、様式、そしてティツィアーノ自身の人生を解き明かす旅へと誘います。 |
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日本初公開となるティツィアーノの《うさぎの聖母》は、ルーヴル美術館では、16‐17世紀のイタリア絵画をメインに展示しているドゥノン翼2階の国家の間に展示されています。
作品が移動していたり、展覧会に貸し出しされているときに、あるべきところに作品が展示されていないと、ルーヴルの見学者からよくクレームが届く作品が5点あるのですが、《うさぎの聖母》は、その5点の作品のなかのひとつです。 |
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この作品の前景に描かれているのは、異なる時代に生きた人物たちですが、彼等は皆、キリスト教の聖人です。そこには聖母とイエス、そしてイエスを抱く、イエスより後の時代に生きた聖カテリナが描かれています。マリアを中心としたこれらの人物像の集まりは、実はひとつの絵画のジャンルとして捉えられます。それは聖会話というジャンルで、そこでは数人の聖人が、敬虔な様子で描かれます。それは、寄進者が信者として神とキリスト教における神の御子、イエスから救済を与えられるために、ティツィアーノをはじめとする作家に描かせたものでした。15世紀に生まれたこのタイプの作品は、イタリアの宗教絵画において、そしてとりわけ、この《うさぎの聖母》がそうであるように、教会よりもむしろ個人邸のような私的な環境において、大きな発展をとげることになりました。 |
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ヴェネツィア周辺の田園風景を好んだティツィアーノは、彼の描く聖会話の場面を、緑あふれる自然の中に設定しました。この、田舎の情景とキリスト教の主題の融合は、16世紀初頭のヴェネツィア絵画における典型的です。そこには情趣あふれると同時に象徴的なうさぎが見られ、その背景には羊飼いがいます。羊飼いは、古代の象徴で聖母マリアとは対照的な存在として描かれており、古代異教に対しキリスト教が勝利を収めたことを想起させます。果物のかごは、キリストによる「贖罪(しょくざい)」を象徴し、聖カテリナの下に置かれた輪は彼女の殉教を想起させます。これらすべての事物がこの荘厳な絵の中に自らの居場所を与えられているようで、そこに山脈の上の夕焼けが調和のある音階を加えています。 |
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ティツィアーノ(1490年頃‐1576年)は、その筆遣いの繊細さやその構図の力強さから、16世紀で最も独創的な画家のひとりである、と言われています。天才的な肖像画家であり、また、神話主題や厳かな宗教画にも優れていたティツィアーノは、生涯にわたってその鮮烈なスタイルを押し通しました。彼は主にヴェネツィアで仕事をしましたが、ルネサンス期に最も力を持っていた君主、カール5世のお抱えの画家でもありました。ティツィアーノはその非凡な色彩感覚を讃えられ、何世代にもわたって、ティントレットからセザンヌまで、そしてルーベンスやドラクロワといった芸術家たちに影響を与え続けました。 |
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