今回登場する作品は紀元2世紀、ローマ帝国占領時代の古代エジプトで木板に描かれた肖像画です。一般に「ファイユームの肖像画」と呼ばれるこれらの作品は、描かれた人物の生前に制作され、ファラオ時代の埋葬用マスクの代わりに、没後ミイラに取り付けられました。古代エジプトの埋葬習慣を発端に、ギリシアの蝋画技法とローマの伝統的な肖像表現の混交から生まれた肖像画には、美術、文化、歴史などさまざまなテーマが入り交じり、鑑賞する人の知と想像を強くかき立てることでしょう。
公開する三作品の中でもとりわけ《ヨーロッパの女性》は、卓越した芸術性と女性の美しさからルーヴル美術館のコレクションを代表する1点です。大きく描かれた瞳はこの女性の存在を印象付けながら、そのうつむきがちな視線はどこか憂愁を帯び、鑑賞者に向けられることはありません。約1800年という時を隔ててなお、個性豊かに私たちを魅了する肖像画。ミュージアムラボは時と場所を越えた出会いの場となります。 |