1.ルーヴル美術館へのマルチメディア・ディスプレイの導入 |
第7回展に引き続き、第8回展の2種類の開発ディスプレイがルーヴル美術館古代エジプト美術部門の第21展示室と第23展示室に導入されます。
世界中から訪れる来館者の多様性に対応したユーザインタフェース、年間800万人以上の来館者数、歴史的建造物である宮殿への設置といった条件を考慮したハードウェアの開発が求められます。
また、常設展示室のマルチメディア・ディスプレイは作品鑑賞の一部として本来の作品鑑賞を妨げない工夫が求められます。
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●直感的な興味から体系的な情報へアクセスさせる |
■問題意識
エジプト部門においての鑑賞の鍵を与える導入コンテンツとして開発されました。このマルチメディア・ディスプレイは、古代エジプト美術部門の第21展示室に設置されます。
エジプト美術は多視点描法、人体表現の比率、左右の対称性など、いくつかの規則に従って制作されており、それらを理解することで鑑賞の幅が大きく広がります。
概念やカテゴリなどの知識体系を前提とした「階層型ツリー構造」は情報の全体像を把握しにくいものになりがちです。また、マルチメディア・ディスプレイ導入によって会場に混雑が発生し、スムーズな観覧が妨げられることがないような配慮も必要となります。
■ミュージアムラボの提案
このディスプレイのために考案されたユーザインタフェースでは、ルーヴルの収録作品を選択メニューとし、それらの作品が体現するエジプト美術の約束事の「カテゴリ」を順に提供します。観覧者が、操作していくうちに(カテゴリ)概念を発見し、受け取った情報を体系化していくことを目指しています。
また、展示作品との競合(展示物よりも先にディスプレイに関心が向いてしまう、もしくは展示ケースに画面が映り込んでしまう、といったこと)を避けるためディスプレイをテーブル状にし、それによって来館者同士で操作方法を共有することで、直感的に理解してもらうことを目指しています。
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●全体像の俯瞰とディテール情報の観察との両立 |
■問題意識
古代エジプト美術部門の第23展示室で、ステラに描かれている内容を説明するマルチメディア・ディスプレイとして開発されました。実際のステラの近くに設置され、そこに描かれた内容を詳述しています。
ステラは全体で意味をなしていますが、説明のために部分を拡大することなどによって全体感を見失いがちです。情報の全体を俯瞰することと部分の詳細を観察することの両立が重要となります。
■ミュージアムラボの提案
“葬祭用のステラを解読する:サケルティのステラ”では、全体像を情報選択(詳細の観察)のメニューにして常に表示し続けることで、得られたディテールの知識をステラの全体像へ再構築(統合)できるように画面が構成されています。研究者がステラを読み解くプロセスを感じられることを目指しています。
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2.作品キャプションパネルの機能拡張 |
■問題意識
世界中から訪れる年間800万人以上の来館者を受け入れ、その多様性に対応するルーヴル美術館にとって、来館者へ基本的な情報を提供するキャプションパネルの多言語化と機能追加が大きなテーマとなっています。しかし、キャプションパネルの多機能化による情報の増加は、来館者の知識要求に応える一方で、混雑の原因ともなりかねないため情報の質と量の工夫が求められます。また、デジタルキャプションパネルを汎用的に美術館に設置するには、故障時のリスク対応やメンテナンスを容易にするための工夫が求められます。
■ミュージアムラボの提案
第7回展から取り組むこの課題に対して、第8回展では作品を識別するための基本的情報を文字情報(従来のキャプション情報)として3カ国語で印刷し、鑑賞の手助けとなるような情報を展示物の画像にポインティングするなど画像情報として提供します。
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3.地図への重畳表現による多層的な背景情報の提供 |
■問題意識
ミュージアムラボ第8回展のテーマ「供物奉納」について歴史的・地理的背景を切り口に解説するため、アビュドスの地図と模型を使います。宗教儀礼やそれに関連する情報を伝達することを目的としています。
■ミュージアムラボの提案
“アビュドスを探検する:オシリス神の聖地”では、地図への情報のプロジェクションマッピングを採用します。普遍的な媒体による視覚情報として地図は印刷し、固定情報として多人数で共有します。各々の観覧者がメニューを選択することで、そこで行われていた行為(特に供物奉納に関する慣習の背景)や歴史的変遷の情報をプロジェクタ映像で地図上にオーバーラップ、又は地図周辺の画面上で提供します。
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4.作品本来の用途を理解させる体験拡張の工夫 |
■問題意識
本来、特定の用途のために作られた作品、例えば今回の展示作品である「王の長官ホルイルアアの供物卓」のように、特になんらかの儀式の道具として作られた作品については、その使用方法と制作背景(使用目的)を知ることが、作品を理解するために重要であり、解説方法に工夫が求められます。
■ミュージアムラボの提案
文化・概念は違っても人間の身体機能は基本的に変わっていません。“供物奉納の儀式に参加する”では、同じ所作を行うことによって興味を持ち、身体的共感を得ることができるのではないかと想定し、本来の道具としての使い方を体験するシステムを開発しました。
拡張現実(AR:Augmented Reality)とCG技術を用いて古代エジプト人が考えていた「奉納」の効果を可視化することで、古代エジプト人の想像の世界があたかも観覧者自身に起こったかのような感覚を与えることを目指しています。
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