イスラム美術とは、13世紀にわたり、スペインからインドまでの3大陸に広がった一文明の、創造力や知性の豊かさとダイナミズムを示す、複合的な分野です。文明としてのイスラムは、文化や言語が異なる多様なグループを包括しています。主要なものだけを挙げてみても、アラブ、ペルシア、トルコといったグループがあります。イスラム文化圏は、安定期、芸術や文学が花開く時期、そして廃墟と荒廃を後に残すのみの、暴力的な侵略期が交互に訪れる、政治的に不安定な歴史を辿ってきました。 |
イスラムの地における社会構造は、厳密な役割分担が基盤となっています。権力を握るのは、唯一武装することが許されていた、エリート軍人たちでした。彼らは税金の支払いと引き換えに、残りの民の身を守っていました。美術品を注文できたのは権力をもつ一部の人たちのみだけであった、と言っても過言ではありません。例えば宗教施設の建設においても、多くの場合は支配階級が自らのお金を出すことで主導権を握っていました。美術品が、宗教関連の人物や商人の注文によって制作されることは稀なことでした。 |
現在に残る美術品は、いわゆる「宮廷芸術」を今に伝えるものです。それらは長い歴史を通じて、一目でわかる一貫した美意識を示しています。この美意識は、イスラム世界内での盛んな交流によって培われてきました。イスラム世界を横断する多くの貿易ルートを通って、芸術家や職人たちも移動していたのです。書の芸術によって高められたアラビア文字の装飾的用法や、幾何学文様がとりわけ好まれたことなど、独特の表現方法がイスラム美術の一貫性を更に強めています。しかしながら、イスラム美術の特徴をこれらの要素だけにまとめてしまうことはできないのです。例えば人物や動物の表現は、写本挿絵、金属器、陶器などの分野では、非常に重要な位置を占めています。 |
|
|
© Photo RMN - © H. Lewandowski |
|
また、こうした一貫性の裏側には、芸術的様式や流派といったものも多く存在しています。各時代、各地域で独自の革新的技法がもたらされ、作品に視覚的アイデンティティーを与えています。イランのレンガ建築からエジプトの石の建物まで、また、マムルーク朝美術の厳密な幾何学的形状からムガル朝インドの柔和な植物文様まで、イスラム美術はその歴史の中で、様々な時代にきわめて多彩な造形様式が花開くのを、目の当たりにしているのです。 |