開発上の課題と解決案 |
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展覧会の導入部分におけるマルチメディア・ディスプレイの使用 |
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●問題意識
展覧会によっては、観覧者が展覧会場に入る前に展示作品の時代背景や文化背景、展覧会の企画意図をあらかじめ理解していた方が展示をより深く理解できる場合があります。
そうした会場導入部における情報提供のために、これまでは入り口付近に文字情報を中心とした説明パネルを設置するのが一般的な手法でしたが、最近はディスプレイを設置し、表現力豊かな番組型コンテンツを提供する事例も見られるようになりました。
しかし、パネル、ディスプレイといった手法を問わず、こうした事前の情報提供は、会場の冒頭部分で観覧者が一定時間滞留することとなるため、見かけ上の混雑が発生します。つまり、その先の会場内では観覧者は分散して鑑賞しているためそれほど混雑していないのに、導入部分だけが混雑している状態となるのです。
また、番組型コンテンツの場合、この影響は会場内にまで及ぶことがあります。多くの観覧者は番組を途中から見始めたとしても、もう一度最初から最後まで通して見る傾向があります。そのため、プログラムの終了と同時に一斉に観覧者が展覧会場に移動することになり、最初に位置する展示室で混雑が起こります。
●ミュージアムラボの提案
ミュージアムラボでは、導入部での番組型コンテンツの適正な長さについて検討するとともに、途中から番組を見始めた観覧者が既に見たところをわかりやすくするチャプターを挿入し、観覧者がそれぞれ、番組を離れるきっかけを設けました。それによって、番組終了後に多くの観覧者が同時に移動するのを防ぎます。
チャプターの挿入によって番組を分割するだけではなく、ディスプレイを床に水平に置くものと、垂直に置くものを使い分けます。水平方向のディスプレイは近づいて上からのぞき込む方が見やすいため観覧者は自然にディスプレイが設置されているところに近寄ることになります。垂直方向のディスプレイは画面全体を見るために少し離れて見る傾向があり、観覧者同士に自然に距離ができます。この性質を利用して、観覧者が番組の進行に合わせて移動する方法を提案します。 |
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●問題意識
ミュージアムラボではマルチメディアを活用した鑑賞補助ツールを開発する上で、だれもが容易に情報にアクセスできるインタラクション、ユーザインタフェースを設計することが重要な課題だと考えており、第1期からさまざまな可能性を探求しています。
公共の場に設置されるマルチメディア・ディスプレイはタッチパネルインタフェースのものが増えています。タッチパネルインタフェースでは、観覧者が押すべきボタンを明確にし隣のボタンを押してしまうという誤操作を防ぐため、ボタンをある程度大きくする必要があり、一画面に表示できる情報量が限定されます。その結果、一画面に表示する情報を最小限、かつ単純化することになり、リンク機能を使った階層型 ツリー構造を採用することになります。
ところがツリー構造は階層構造になった情報の全体像を把握しにくくなるという難点があります。観覧者は、今自分が見ているところがツリー構造のどこにあたるのか、終わり、または切りのいいところに到達するまであとどのくらいあるのかが判断できず、制作者が作成した要点にたどり着く前に操作をやめてしまったり、探している情報にたどり着けなかったりすることがあります。ときには興味があるのに、その情報の存在にすら気づかないこともあるでしょう。
●ミュージアムラボの提案
情報の全体像を把握しやすくするため、ディスプレイに階層構造を示すといった工夫がされてきましたが、第7回展では観覧者にコンテンツの数や階層を直感的に把握・理解してもらうため、「紙のパンフレット」を応用したユーザインタフェースを提案しています。
観覧者は並んでいるパンフレットの種類だけ情報があり、ページごとに情報が記載されていることを直感的に理解できます。このことを利用して、「パンフレットを手に取る」ことを「ディスプレイでコンテンツを選択する」ことに、「パンフレットのページをめくる」ことを「次の階層へ進む」というユーザインタフェースに置き換えます。
また、パンフレットを取り扱うときの一般的な行為に結びつけてユーザインタフェースとすることで、使用方法の説明がなくても直感的に操作できるという利点もあります。 |
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作品キャプション表示におけるマルチメディア・ディスプレイの機能性 |
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●問題意識
観覧者に本物の美術作品を鑑賞してもらうことが美術館の目的です。従って、 なるべく情報量を最適化して美術鑑賞に専念してもらいたいと考えます。しかし、近年では国際化に伴い観覧者の言語や文化背景も多様化しているため、作品名・作者名・制作年代など最低限の情報を多言語で表記した上で、より詳しい作品解説を提供していかなければなりません。
展示室ではこれらの情報を掲載するスペースが制限される場合が多く、作品との関連付けが難しいのが現状です。
小型ディスプレイなどでキャプションを表示することも増えていますが、紙に印刷された従来のパネルに比べると判読性に劣ります。またディスプレイでは多くの情報を表示できるため観覧者の滞留時間が長くなる、ディスプレイが故障してしまうと最低限の情報も提供できないといった問題があります。
●ミュージアムラボの提案
第7回展では最低限の情報を小型ディスプレイの表面に印刷し、従来のキャプションパネルが担ってきた機能を確保した上で、多言語表記やエピソードなどの拡張情報を小型ディスプレイに動画で表示するという組み合わせを提案します。
また、情報の質・量などソフト面と形状・見やすさなどハード面の両面からさまざまな可能性を実験・提案していきます。 |
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●問題意識
実際の作品を目の前にしたときに作品の何を、どのように見るべきかは観覧者にとって大きな関心事です。ところが従来の手法では、観覧者がそれらの情報を受け取る行為と、その情報を活かしながら作品を見る行為とが分断されがちでした。
たとえばパネルなどで固定された情報を見る場合、作品と情報の間で視線を行き来させなければなりません。音声でのガイダンスは視覚的な情報を明確に伝えることが難しく、その結果、作品の背景に関する情報が多くなりがちで、作品に目が向かなくなってしまうこともあります。
●ミュージアムラボの提案
ミュージアムラボではプロジェクト全体を通じてこのテーマに取り組み、各回の展示作品にふさわしい方法を提案します。マルチメディアを活用することによって、作品の近くで情報を提供する際の課題のひとつである、作品を見ることと情報を受け取ることの両立させる解決方法を探ります。
第7回展では作品の見どころを作品の近くにテキストで表示、同時に実際の作品に直接、光でポインティングすることで観覧者の視線を誘導し、理解を深める映像装置を開発しました。 |
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複数のマルチメディア・ディスプレイによる同一コンテンツの提供 |
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●問題意識
ワークショップ的なコンテンツは観覧者が能動的に関わることで学習効果が高くなることが期待されます。その代表的なものであるシミュレーション・コンテンツは、観覧者の個人作業が中心になり、観覧者にとって興味深い内容であればあるほど、一人の観覧者がディスプレイを占有する時間が長くなります。そのため、参加したい=操作体験したい観覧者の順番待ちを引き起こす原因となってしまいます。
その解決策として複数のディスプレイを設置した場合、観覧者が自分の目の前のディスプレイと隣のディスプレイが同じサービスを提供しているのかどうか、把握できないことが多く、どのディスプレイを操作する(並ぶ)べきか、一つのディスプレイを操作した後別のディスプレイに移るべきかわからなくなることがあります。
また、複数のディスプレイが提供するインタラクティブなコンテンツは個人作業が中心になるため、グループで来館した観覧者は互いのシミュレーションのプロセスや結果などを共有することが難しく、現実のワークショップのような参加者同士の達成感や共感を得にくくなります。
●ミュージアムラボの提案
第7回展では、操作は各自が個別のディスプレイで行いながらも、コンテンツを観覧者同士が共有できる仕組みを提案しています。
まず、コンテンツのメニュー選択には実際のオブジェクトを共同で使用し一緒に作業をしているような感覚を与えます。さらに、操作結果を個人のディスプレイに表示するだけでなく、他の観覧者が見られるように立体物に投影することによって、観覧者は実際のワークショップに参加したような共感を得られます。 |
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●問題意識
生活の道具である工芸品は本来なら手に取って自由に鑑賞できるようにすべきですが、作品保護の観点から現在では触って鑑賞することはできません。展示ケース越しの鑑賞ではディテールまで細かく鑑賞できず、作品の完成度を実感することが難しくなってしまいます。
●ミュージアムラボの提案
第7回展では観覧者に、食器に施された装飾の効果を理解してもらうために、3D-CG技術を使って、あたかも作品を手に取って鑑賞しているかのように、自由に動かせるようにしています。さらにその3D-CGと高精細画像をシームレスに連動させ、3D-CGでは表現しきれない作品のディテールを観察できるようにします。 |
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ルーヴルに再設置するマルチメディア・ディスプレイの開発 |
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●問題意識
第7回展で開発されるマルチメディア・ディスプレイのうち2台が、2011年中にルーヴル美術館工芸品部門に一時的に設置された後、2012年の18世紀装飾美術展示室の全面リニューアルに合わせて設置されます。これは、ルーヴル美術館ではミュージアムラボで開発されたディスプレイが常設展示室に本格導入される初めての事例となります。
世界中から訪れる来館者の多様な言語や文化背景に対応したユーザインタフェース、年間800万人以上の入場者に対応するシステムの耐久性や堅牢性、作品の鑑賞を妨げず、かつ鑑賞に適したコンテンツ、歴史的建造物という面での制約などさまざまな課題をクリアするソフトとハードの開発が求められます。
とくに常設展示室内の作品のそばにマルチメディア・ディスプレイを設置する場合、ディスプレイ のコンテンツを見ることに集中し、肝心の作品への注意が注がれない、という可能性があります。単なるコンテンツの鑑賞ではなく、本来の作品鑑賞の一部としてディスプレイを組み込むことが重要です。 また、コンテンツの内容のみならず、ディスプレイの操作と作品鑑賞の親和性への配慮も必要です。
●ミュージアムラボの提案
第7回展では、ルーヴル美術館の実際のフィールドで対応可能なディスプレイとして、ふたつの演出方法を提案しています。
ひとつは、展示ケースにディスプレイを組み込み、作品を中心に、補助展示物(作品を構成する素材)と番組型コンテンツを視覚的に関連付ける演出。
もう一方は、観覧者を目の前で展開される場面に誘い入れるような演出です。観覧者を身体的に巻き込みながら作品理解の鍵となる解説を提供することによって、想像力豊かに作品にアプローチする鑑賞姿勢を促します。 |
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