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《赤像式萼形クラテル》、通称《アンタイオスのクラテル》
ギリシア陶芸の傑作であるこの萼形(がくがた)クラテルには、エウフロニオスの署名があります。紀元前6世紀末の数十年間にアテナイで活躍した陶器画家エウフロニオスは、当時の最も卓越した芸術家の一人とみなされています。赤像式技法を最初に使用した「先駆者たち」と呼ばれるグループの一員でもありました。 このクラテルはエウフロニオスの最も有名な作品の一つで、そこには英雄ヘラクレスが巨人のアンタイオスを倒す場面が描かれています。場面の構図、写実的な表情、格闘する身体の細部の描写は、いずれも大胆で革新的です。 神話を主題とする絵の巨匠といわれるエウフロニオスは、神話以外にも日常生活の場面を多く描いています。このクラテルのもう一方の面に描かれている音楽競技の図がその例です。 赤像式の杯
紀元前500年頃、エウフロニオスは何人かの陶芸家を集め、杯を専門とする工房を創設し、彼自身も陶工として活躍しました。この大型の豪華な杯に、«Euphronios epoiesen»《エウフロニオスが作った》という署名を残していることから、陶器画家から陶工に活躍の場を転じたことがわかります。 弟子オネシモスの作とみなされている装飾は、ポセイドンの息子である英雄テセウスの功業を表しています。円形の画面には、女神アンフィトリテ、アテナの横にテセウスが描かれています。一方外側には、若いテセウスが山賊や獰猛な動物と格闘する様々な功業の場面が描かれています。格闘の場面は、オネシモスにとって、動きのある肉体の描写を研究するための格好の対象になりました。 休息するヘラクレス
この小像は、紀元前330年頃、彫刻家リュシッポスによって制作されたブロンズの多くの模刻の一つで、英雄ヘラクレスが12の功業を成し遂げた後の姿を表しています。疲れ果てたヘラクレスは、ネメアのライオンの皮で覆われた棍棒に寄りかかっています。元来は、最後の功業で手に入れたヘスペリデスの園のりんごを右手に持っていました。 ヘラクレスは、エウフロニオスのクラテルで見られるように、格闘する姿で描かれることが多かったのですが、リュシッポスはその形式を破って休息する姿で描いています。 この作品にはリュシッポスの斬新な意欲も反映されています。作品を3次元の空間の中に置くことで、観覧者は作品の周りを回りながら、作品の意味や造形的効果を把握するように作られています。 ディオニュソスの仮面
このテラコッタの仮面は、葡萄酒と演劇の神であるディオニュソスを表しています。ディオニュソスはシュンポジオン(饗宴)を司る神で、男性たちはクラテルの中で準備された葡萄酒を飲むために集まります。 ゼウスと人間の女性セメレの息子であるディオニュソスは、奇跡によって生まれました。妊娠中のセメレがゼウスの雷に打たれたため、胎児は父親の腿の中に埋められ、そこから誕生しました。ディオニュソスは、老いたシレノスのもとで育てられ、アジアへ長い旅に出かけます。その後ディオニュソスは、神々のもとで暮そうとしましたが、自分を神として崇拝しない者を狂わせるので、なかなか神として受け入れられず、それが叶うまでには時間を要しました。葡萄酒や演劇によって表される聖なる狂気の神です。 この作品は、連作で制作されたディオニュソスの仮面の一つで、ギリシア中央部のボイオティアで作られました。ディオニュソスは当地で特に人気を博し、崇拝されていました。このタイプの仮面は、顔につけるのではなく、冠の部分と髭に見られる4つの穴を使って、吊り下げられていたと思われます。かつては豊かに彩られていましたが、今は退色しています。 |
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